Benjamin's LOG

アウトドア派転向中?

第3754号:清風

八戸駅

 八戸に降り立ったのは、実は初めてではない。
 前に来たのは5年前。その年の正月の松も取れぬうちに交通事故で他界した無線部の後輩納骨法要だった。
 当時、東北新幹線が八戸まで延長開業してから1年強。盛岡から先の区間に乗車するのは初めてだったのだけど、新線の感触を楽しめる筈も無く、心の重い行路だった。ただ、いつかこの街を純粋に観光で楽しめるときが来ればいいなぁ、という思いを持ったのもまた事実であった。

 そんな八戸に来たのだから、当然行くべき場所は決まっている。
 宿を朝8時前に出て、最寄の停留所からバスに乗り、降りてから歩くこと数分。よく注意して見ていなければさらっと通り過ぎそうな所に、5年前と同じ佇まいでその寺はあった。
 本堂の左隣に墓所があるのだが、困った事に墓石の位置をすっかり忘れている。辛うじて本堂を正面に見た時に後ろ向きだったということだけは覚えていたのだけど、そもそも墓地というのはきちんと墓石を並べているもので、同じようなロケーションなんていくらでもある。しかも、当時は気付かなかったけれど、彼と同じ苗字の多いこと。なるほど、わりと珍しい部類に入る苗字だと思っていたけれど、まさにこの辺りが由来だったわけね。

 というわけで、大荷物を背中に墓石の間をうろつくメタボ中年が一人。監視カメラがあったら明らかに不審者として通報されていたかもしれないのだが、幸い辺りには人がおらず。十数分の捜索の末、ようやく見つけた時には暫し立ち竦んでしまった。花立にはまだ色の残った菊が入っている。丁度彼岸だし、親御さんはもう来られたのだろうか。
 墓石に語り掛けても返事は無いけれど、瞑目するといつも爽やかだった笑顔が浮かんできた。たぶん、ここに来ればいつでも彼に会えるような気がして、去る時に自然と「また来るよ」という言葉が出てきた。何となく、清々しさを分けてもらったような気分になった。

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